スミセイと人
企業訪問記~日本航空株式会社様~
今回は社内を飛び出し、日本航空株式会社(以下JAL)様にお邪魔しました。同社は、2010年に経営破たん 。その後、稲盛和夫氏を迎えて再建、再上場を果たして現在に至ることは皆さまよくご存じのことと思います。最近ではコロナ禍で航空業界全体が大きなダメージを負いましたが、再び力強く羽ばたこうとされています。
稲盛氏が会長に就任されて、氏の経営哲学に根差した「JALフィロソフィ(哲学)」で社員の意識改革に取り組まれたのは有名な話ですが、JAL様では稲盛氏が退かれた後もこのフィロソフィを学び続けるための勉強会を12年間継続実施されています。今回はその「JALフィロソフィ勉強会」を見学させていただき、力強く蘇ったその秘密を探ってまいりました!
お話をお聞きするのは、意識改革推進部の清水部長です。
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こんにちは、本日はよろしくお願いします。この「JALフィロソフィ勉強会」はどのようなものなのでしょうか?
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よろしくお願いします。JALでは経営再建にあたって、大きく2つの改革に取り組みました。ひとつはこれまでの仕組みや制度を変える“外科的な”改革、もうひとつは従業員の意識を変える“内科的な”改革です。「フィロソフィ勉強会」は“内科的な”改革としてスタートしました。
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当時はどのような状態だったんでしょうか?
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さまざまな仕事、多くのグループ会社があるのですが、かつては自分たちの仕事で手一杯で他への関心は薄かったような気がします。稲盛氏の元、フィロソフィを創るにあたって「他人任せにしていなかったか?」「(会社全体の)利益についてどれくらい意識していたか?」「心の底から湧き出る気持ちでお客さまと向き合ってきたか」という内省が原点になっています。
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勉強会はどのように実施されているのでしょうか?
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勉強会には、JALグループ全従業員が年に3回必ず参加します。4カ月を1タームとしてそれぞれ別テーマで5人程度が1組になって対話を重ねるというものです。当初は集合して所属単位で行っていましたが、コロナ禍を機にZoomになり、所属の垣根を越えて話せるメリットも大きい、ということで現在もオンラインを継続しつつ、対面も復活させて実施しています。
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それぞれ色んなお仕事をされていて、会社も年齢も異なる方同士で対話をするのは難しくないですか?
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飛行機を安全に飛ばす、という明確な1つのミッションがありますので、グループ全体で思いは通じるところがあり、参加者からもポジティブな意見がたくさん出ています。一方で、現場の一体感に比べると、コーポレート(本社)がそのレベルの一体感を十分に持っているかというのは課題と考えています。
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具体的な対話の内容について教えてください。
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当初は「JALフィロソフィ教育」と題して、各項目について理解を深め「浸透・実践するため」という感じもあったのですが、4年前から「~勉強会」と名を変えて、「浸透・実践」ではなく項目全体を俯瞰し、自発的・主体的に考えられるようなテーマを設定して、対話を中心とした参加型の運営としています。ただ年に3回参加すればいい、というのではなく、日々の業務の中にいかにフィロソフィを落とし込んでもらうかということを考えています。
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例えば、今月のディスカッションテーマであれば、「あなたの「見える化」したいことは何ですか?「見える化」することで得られる効果は何ですか?」としています。これは背景に「部門別採算制度」の考えとJALフィロソフィがあります。2つが両輪となることで、全員が経営に参加し、利益を出し続けるという企業理念が実現できると考えています。
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なるほど。そのように考えることが自部門の利益だけでなく、会社全体の利益を考える「利他の心」につながってくるんですね。
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コロナ禍におけるエピソードですが、空港のゲートをお客さまが通過される際にあるスマートフォンのQRコードをうまく読み取れずエラーになってしまうという不具合が発生していました。伊丹空港職員が同じ伊丹空港の整備士に何気なく話をしたところ、ちょっとした手作りの部品を作って不具合を解消しました。聞きつけた他空港の空港職員から全国展開を依頼されましたが、当時整備部門の総務にいた私は、予算面や製作にかかる時間を考え、とても全国展開はできないと逡巡していたのですが、それを聞きつけた羽田の整備士から「他空港でも同じ事象で困っているので、利他の心を持ち、できることを考えていくべきなのではないか」と意見をもらい、はっとしたことがあります。その整備士は翌日から部品を作り始めていました。
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難しい問題ですね。
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ご存じの通り、コロナ禍には旅客便が飛ばせない状況になりました。危機的な状況ではあったんですが、グループ航空会社と貨物郵便本部が連携することで貨物便として運航した事例が発生しています。これも「利他の心」から「グループ全体で何かできることはないか」と連携した結果、実現できたグループシナジーだと思います。
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今後の課題について教えてください。
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稲盛さんから教えていただいたことを、我々社員が引き継いでいかなければなりません。稲盛さんがこう言っていたから、というのではなく、自分たちで考えて日々の業務の中にフィロソフィを落とし込んでいかなければならないと考えています 。
編集後記
JAL様の経営理念冒頭には以下の言葉が掲げられています。
社員一人ひとりが「JALで働いていてよかった」と思えるような企業を目指さなければ、お客さまに最高のサービスを提供することもできないし、企業価値を高めて社会に貢献することもできないという考えから、企業理念の冒頭に「全社員の物心両面の幸福を追求する」と掲げられています。
お客さま、社会に貢献するにあたって、一体感をもって力を合わせていく、そのためには全社員の幸福を追求することが必要、という点は「ウェルビーイング」を目指す当社においても学ぶべき点が多いかと感じました。
JALの皆さま、取材ご協力ありがとうございました!!
